臨床医 大日向氏が語る「5-デアザフラビン(TND1128)」の治療可能性~難治性疾患に新たな光~

臨床医 大日向氏が語る「5-デアザフラビン(TND1128)」の治療可能性~難治性疾患に新たな光~

「5-デアザフラビン(TND1128)」は細胞のエネルギー代謝を活性化し、アンチエイジングケアのみならず、様々な疾患への効果が期待される新規化合物です。

既存の治療では改善が難しいとされる症例での効果が報告され始めている本物質の可能性について、臨床医の視点から東京医科大学医学総合研究所 免疫制御研究部門 客員研究員の大日向玲紀先生にお話を伺いました。

老化研究の最前線へ

先生のご経験と、抗加齢医療に興味を持たれた経緯を教えていただけますか?

私は東京都立のがんセンターで、消化器がんを中心とした腫瘍外科の診療に長年携わってきました。主に高齢の患者さんの胃がん手術の安全性と治療成績の評価を研究テーマとしていました。その中で、同じ年齢層でも術後の回復に大きな個人差があることに気づき、老化現象そのものに興味を持つようになりました。それが、老化治療の可能性を持つ再生医療分野の研究を始めるきっかけとなっています。

5-デアザフラビン(TND1128)との出会いについて教えてください。

知人の医師から紹介されたのが始まりです。当時はNMNが注目を集めていた時期でしたが、5-デアザフラビン(TND1128)の基礎研究データに強い可能性を感じ、製造元に問い合わせました。臨床医として、基礎研究データの可能性を実際の医療現場でどう活かせるか、特に通常の治療では改善しにくい症状への応用に興味を持ちました。

臨床症例から見える5-デアザフラビン(TND1128)の神経疾患への可能性

現在、どのような方々に5-デアザフラビン(TND1128)を使用されていますか?

数十人単位で使用していますが、多くは若々しさや活力の回復を目的とする方々です。その中に何例か、実際の病気で困っておられる方がいらして、そういった方々に投与した結果、比較的効果が見られたケースがありました。そこから、このマテリアルの可能性についてさらに知見を深めていきたいと考えるようになりました。

その中で、特に印象に残っている症例について教えていただけますか?

50代の男性の本態性振戦の症例が特に印象的です。本態性振戦は原因不明の震えを特徴とする疾患で、40歳以上の4%に認められており、この患者さんは、コップの水を飲もうとする際も激しい震えのために水をこぼしてしまうほどでした。検査しても原因不明と言われる中で5-デアザフラビン(TND1128)を内服していただいたところ、震えの程度が顕著に改善しました。おそらく何らかの神経系に作用したものだと思われるのですが、現状のいわゆる一般的な医学で治療方法がないと言われている中でこの新しいマテリアルが効いたっていうのは結構驚くべきものだったなと思い、印象に残っています。

神経変性疾患への作用機序について、何か示唆する研究はありますか?

2021年の医学論文誌Biochemical and Biophysical Research Communicationsでは、5-デアザフラビン(TND1128)が神経細胞の軸索や樹状突起の長さを顕著に誘導したという結果が報告されています。神経細胞は一度損傷や変性をすると修復が難しいとされていますが、この結果は中枢神経系の障害に対する治療可能性を示唆しています。パーキンソン病など難治性の神経変性疾患、認知症にも効いてくれたらと期待しているところです。

認知症に対する症例もありますか?

私自身の症例ではありませんが、認知症の段階が非常に悪かった方に投与したところ、中長期的に一段階二段階良くなっていたという話を聞いたことがあります。発表されているドクターのあくまで一例の症例に関してなので、実際どのぐらいの打率で効果あるかはわからないところです。なにぶんまだ普及しきっていないお薬であり、5-デアザフラビン(TND1128)のみならずサプリメントを認知症の治療に導入しようというドクターがまだいらっしゃらないので、N数を増やしていくには時間かかるかなといった印象です。

5-デアザフラビン(TND1128)への今後の期待

神経系以外にも期待されている分野はありますか?

いくつか興味深い分野がありますが一つは代謝性疾患への効果です。ミトコンドリア機能の活性化という特徴から、細胞内での糖の消費、脂質の代謝回路が活性化することが考えられ、血糖値やコレステロールの改善など、生活習慣病への応用可能性も期待したいです。

また、薬剤不応性の気管支喘息に対して興味深い報告があり期待しています。既存の薬物療法でコントロール不良だった気管支喘息の方が、5-デアザフラビン(TND1128)の内服後、発作が著明に軽減し、最終的にはかなり鎮静化したというケースです。おそらく代謝経路を介して気管支の平滑筋に作用した可能性が考えられますが、喘息で困っている方が多いことを考えると、この分野での可能性にも期待が持てます。

現在注目されている研究の動向について教えてください。

主に3つの研究の進展に注目しています。

一つ目は、カロリンスカ大学での認知症に対する研究です。結果自体はまだ公開されていませんが、近々オープンになる予定と聞いています。

二つ目は、スウェーデンの製薬メーカー・レシファームでの大規模な臨床試験の検討です。製薬会社が関わることで、研究開発や人での効果検証が一気に進むのではないかと期待されます。

三つ目が、国内での水溶化研究です。5-デアザフラビン(TND1128)は水への溶解が非常に難しく、これが基礎研究を進める上での障壁の一つとなっています。水溶化が実現すれば、注射薬としての開発も可能になり、より直接的な投与方法の開発につながります。また、基礎研究も大きく加速することが期待できます。

研究を進める上での課題はありますでしょうか?

5-デアザフラビン(TND1128)の生体内での作用機序がまだほとんど解明されていないことが大きな課題です。例えば、どういった経路で細胞内に取り込まれ、どういった代謝が行われるのかという基本的な部分もわかっていない状況です。NMNの場合は細胞内での代謝経路がほぼ判明していますが、5-デアザフラビン(TND1128)はここからの課題となっています。これらが明らかになることで、より効果的な使用方法や他の治療との組み合わせの可能性も見えてくるのではないかと考えています。

まとめ:基礎研究から臨床応用まで広がる可能性

2000年以降、老化に関する研究は飛躍的に進み、その生物学的な原因も徐々に解明されてきました。5-デアザフラビン(TND1128)は、ミトコンドリア機能の活性化や若返り遺伝子の活性化を通じて、細胞レベルでの老化への対応を可能にする新たなアプローチとして注目されています。

さらに、本態性振戦や認知症、難治性喘息など、既存の治療では改善が難しい疾患での効果も報告されています。ただし、現状ではまだ症例数が極めて限られています。「良くなった」という症例報告は散見されるものの、どの程度の効果があるのか、科学的なエビデンスの構築はこれからの課題です。今後、製薬企業での大規模臨床試験の実施や、より多くの医療機関の参画により、5-デアザフラビン(TND1128)の新たな可能性が明らかにになることを期待しています。